ファランステールの木陰より(第一回)
海事代理士・貿易コンサルタント
望月 照之(1)
先日、縁パワーの山田代表より原稿をご依頼いただいたのだが、テーマやスタイルについてすぐにぼんやりとイメージできた。元来、私は究める作業、つまり、狭く深く掘り下げるのが苦手な人間で、研究者には向かない人間だと思う。逆に、広くいろいろなことに興味を持ち「ツマンでみる」ことに楽しみを見出すタイプである。従って、私らしくテーマを絞りすぎないエッセイという形で皆さんに”笑い”、”興味” 、それに”!と?”をたくさん提供できたら良いかなと考えた。
スタイルは決まった。だが、タイトルについては2日ほど考えてしまった。最終的には「ファランステールの木陰より」に決め、山田氏にご快諾いただいた。さて、ファランステールとは聞き慣れない言葉だが、ざっくり言うなら、フランスの[2]シャルル・フーリエという社会思想家の斬新・奇抜ではあるが少々誇大なユートピアの構想に出てくる「生産手段を共有する共同体住居」のことである。私には縁パワーの姿とある種の理想郷であるファランステールとが重なって見えた。共同体構成員の”尊厳の擁護”と”住の重視”である。
フーリエは18世紀末〜19世紀前半というナポレオンやジョージ4世、或いは作曲家のベートーベンと同時代を生きた人であり、その思想は後世、マルクスなどにより空想的と批判されはしたが、マルクスの同志であった[3]
エンゲルスは肯定的に評価していたし、1940年に没したドイツの哲学者、ヴァルター・ベンヤミンは「[4]パサージュ論」として出版される草稿群のうち”フーリエ”という一節で論じるなどかなり高く評価していた。社会制度を変えようとする時、現実=現場のあるがままを直視し地道に「煉瓦を積む人」が必要である。しかしながら、同時に夢がなければ進歩への推進力は得られない。また、フーリエは人間の情念や欲と向き合った思想家である。私はこの点、評価している。
理想の共同体ファランステールの暑くも少々湿ったソーヌ川の空気が漂う昼下がり・・、中庭の木陰に住人が集まりいろいろな話をする。チョウサーの「[5]カンタベリー物語」の登場人物たちがそうしていたように・・。ある哲学者はジョン・ロックの著作について、ある船乗りはカナダの沖に浮かぶサンピエール島やミクロン島で過ごした冬の話、そして、ある貿易商はトルコのコヌヤの街の大モスクから流れるアザーンの美しさを語る・・。フーリエが生きた時代からちょうど二世紀半後、同じリヨンの街に学生として生き、時に思索した私が社会主義者ではないけれどファランステールを想って綴るエッセイとして色々と書かせていただきたいと思う。 続く
[1] 石川県金沢市出身。ポワティエ大学、サヴォワ大学でフランス語・フランス文学を、リヨン第二大学で政治地理学等を学び、リヨン・カトリック大学大学院では国際人権法をジャンマリー=デュッフェ教授に師事し、同大学より法学修士号取得。現在、海事代理士・貿易コンサルタント。
[2] 「シャルル・フーリエとは/ はてなキーワード」
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%B7%A5%E3%A5%EB%A5%EB%A1%A6%A5%D5%A1%BC%A5%EA%A5%A8
[3] 「ユートピア研究」 http://yutopiakenkyu.hatenablog.com/entry/2016/08/12/202950
[4] 「パサージュ論」 ヴァルター・ベンヤミン著 岩波現代文庫
[5] 「カンタベリー物語」ジェフリ・チョウサー著 金子賢治訳 角川文庫